2013-12-20

【nano.RIPE】何の根拠もない自信で 思った方向に進めばいい!

 nano.RIPEが3rdアルバム『涙の落ちる速度』をリリース。ヴォーカル きみコの心象風景を中心にしているのは変わらず、前作から一歩前に踏み出して、明るく前向きな印象のアルバムに仕上がった。そんな同作についてきみコが語ってくれる。


 【聴く人にやさしい歌を書きたいと 最近はすごく思うようになった】

──3rdアルバム『涙の落ちる速度』はすごく明るい曲で始まったので、前2作とは違う作品という印象でした。

「デビューから3年ちょっとを経て、前向きなnano.RIPEを詰め込むことができたと思っています。暗めの曲もありますが、最終的に聴いた印象として明るいものになるようにと、曲順もすごく考えました。特に「ユートピア」という曲を最後に持ってきたことによって、全体のイメージが前向きなものになったと思います。あと、アルバムのリード曲である「ハロー」は、最終的に伝えたいことが希望のあるものだったので、それを軸にして今まで以上に希望を感じてもらえる作品にしたいという気持ちもありました。」

──「ハロー」は曲調はすごく明るいけど、歌詞は心の奥深くのことを歌っていますよね。自分に向けて書いたのですか?

「これは聴いてくださるみなさんに向けて書いた曲です。あたしは今まで人のために歌ったことはなくて、この先も歌うつもりはないと言ってきました。それでも、聴く人にやさしい歌を書きたいと最近はすごく思うようになっていて。そうやって書いたのですが、改めて歌詞を読むと誰かにこういう言葉を言ってほしいという歌詞だと思ったし、その点では結局自分は自分のために歌っていると再確認もしたんですけど。」

──歌詞には《足元ばかりを見て見逃したものもあるだろう》というフレーズが。これは何かそういう実感があった?

「メンバーも最初は、あったものを見逃してしまったと捉えたらしいですけど…。見逃したものもあったろうけど、その中に大切なものはなかったと歌っています。前を向けと言われることが多い世の中で、下を向いたり、立ち止まったり、後ろを向くことは、決して悪いことだとはまったく思ってなくて。自分が向いたほうが前になる。これは「タキオン」の歌詞とも通じています。「タキオン」では結局未来か過去か進んでいるのはどっちか分からないけど、何の根拠もない自信で、思ったほうに進んで行けばいいと歌っていて。」

──自分が進めば、それが道になると。

「アントニオ猪木さん的な発想ですね(笑)。」

──“タキオン”というのは光より速く進む粒子のことで、タイトルの“涙の落ちる速度”とつながりますね。

「「タキオン」はもうひとつのリード曲と言っていい重要な曲なので、そこからのインスパイアも加えてアルバムタイトルを考えました。その速度というのは、聴く人の状況で速いかもしれないし、落ちてきた涙を受け止められるくらいのものかもしれない。それぞれで感じてもらえたらうれしいです。」

──後半の「マリンスノー」という曲は、ダンスロックというか。曲調的にチャレンジしたものになっていますね。

「今までにない感じですね! これはギターのササキジュンがリハーサルの時にギターリフを思いついて、それに合わせてセッションするように作って。後日それにメロを付けてできた曲です。こういう曲調だからもっと淡々としたものになると思ったのですが、予想以上にメロディアスで素敵なメロディーが付いたので、さすがササキジュンだな?と思いましたね(笑)。アルバムの中でもっとも演奏が難しい曲ですが、キマったら絶対にカッコ良いと思うんです。それには相当練習が必要なので、ライヴで披露できるのはいつになるか…。」

──“マリンスノー”というのは、海の中に降る雪のことですね。

「最初は言葉をどこかで聞いて、調べたらそれがプランクトンの死骸だと知って。すごくきれいでロマンチックだけど、死骸なんだ?!って(笑)。あと、この曲は海に潜ることを、自分の心の中に潜るということと重ねています。でも、結局そこには求めていた答えはなかったというオチなので…アルバムの中で一番暗い歌詞かもしれません。」




 【自分の存在とかに不安があって それはきっと死ぬまで付いて回る】

──曲順が戻りますが、1曲目の「ウェンディ」はピーターパンに出てくるウェンディのことですか?

「そうです。インディーズ時代の「風の少女」という曲は、ピーターパンが“キミは飛べるよ”とウェンディに語りかけている歌でした。で、そのアンサーソングとして書いたのが「空の少年」で、まさにピーターパンのことを歌っていました。そして、今回はピーターパンシリーズ第三弾として、ウェンディのことをうらやましく見ている自分が主人公です。」

──明るい曲調と裏腹に歌詞はちょっと暗めですね。

「自分はもともとアップダウンの激しい性格なのですが、落ちている時は自分のどこかが足りなくなっていたり、心のどこかをなくしてしまっている気がするんです。そうやって落ち込んだ1日のことを思い出して書いたんですけど、曲ができたことですごく気持ちが晴れたんですね。それでメンバーに病んだ甲斐があったよと話したら、勘弁してよって言われました。あたしが落ち込むと曲は生まれるけど、周りにはすごく迷惑がかかっているみたいです(笑)。」

──また、「痕形」という曲は歌声がすごく力強くて。他の曲とは声の質感がまったく違うと思いました。

「これはライヴに近い歌い方を意識して録りました。アルバムの最後にできた曲で、あたしが言いたいことをただ歌うというものにしようと。あたしの意思表示というか気持ちを込めて、ちょっと荒っぽいぐらいのエモーショナルな感じで歌っていて。歌い方は曲によって変えていて、「なないろびより」の時はただ気持ち良く歌うことを意識していたりといろいろですが、「痕形」は特に違いが出ましたね。」

──歌詞は自分の中の不安を歌っていますね。こんなにライヴをやってファンもたくさんいるのに、それでもまだ自分の存在に不安があるんだな?と心配になりました(笑)。

「そうなんですよね。そこはなかなか成長しないところで。ツアーもやるたびに規模が大きくなって、本当に順調に伸びていると実感はしているのですが、それでもまだ自分がいる意味とか、自分の存在とかに不安があって。それはきっと死ぬまで付いて回るのだろうなと思います。」

──でも、そうやって常に悩んで葛藤しているきみコさんだからこそ、ファンは親近感を持つわけですよね。

「ファンの方は、特にそういう部分に共感してくれていますね。不安を感じている自分に、ファンのみんながそんなことはないよと言ってくれる。だから、あたしもみんなが自分には必要なんだと歌える。そういうサイクルができている。」

──でも、多くのファンはnano.RIPEの歌を勇気に変えて、壁や問題を乗り越えて成長していくんですよね。

「それはそれで我が子の独り立ちを見守る母親の気分だし、また新たなファンがきてくれたらその成長を見守ることになるし。でも、そう考えるとあたしだけが取り残されているみたいで少し寂しいですけどね(笑)。」

──多くの歌詞にも出てきますが、きみコさんがよく言う“ココにいる”というのは、そういうことなのかも。

「そうだと思います。僕らはいつもココにいるし、どんなかたちでもみんなの生活の中に僕らをいさせてくれるのなら、そこも僕らの居場所になる。“ココ”は、みんなが決めてくれればいいんです。nano.RIPEを聴かなくなって何年かして、それでもみんなの心のどこかに置いといてくれたら、そんなに嬉しいことはないです。」

──パッケージについてですが、初回限定盤AはB-side collection『アマヤドリ』とAcoustic collectionの『ミズタマリ』を加えた3枚組。全45曲ですごくお得ですね。

「『アマヤドリ』は、メジャー以降のシングルでアルバム未収録のカップリング曲を収録していて。『ミズタマリ』は購入特典として付いていたアコースティックバージョンで、ちゃんと音源化してリリースしてほしいという要望が多かったので付けてしまおうと。ただ、『ミズタマリ』に収録の「ティーポットのかけら(カモミール)」は新曲です。去年から鍵盤の練習をしていて、そのお稽古の成果として1コーラス入れてみました。これは初回限定盤Aにしか収録されていません!」

──では最後に、2013年の感想と2014年の展望を。

「2013年は最後にこの大作の制作があったし、ツアーも3回やったし、すごく中身が濃い一年でした。今回で曲は全て出し尽くして貯金はゼロと言っていますが、実際はまだまだかたちになっていないストックがたくさんあるので、すぐ新たな制作が始まります。このアルバムで新たなことも見えるだろうし。2014年の活動も期待していてください。」

取材:榑林史章

(OKMusic)


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